トップメッセージ

協力会社や地域の皆さまを含む全ての『人』を大切にし、持続的な成長を目指します

安定的なパートナーシップの構築に向けて
建設業界誌の中で、とある地域の建設会社社長が書いていた記事に、このような記載があったのが目に留まりました。“全国展開するゼネコンは大名で、その下で働く我々は足軽だ。”これを読んだとき、「多くの協力会社の方々は、我々ゼネコンのことを同じ思いでものづくりに従事する仲間と思っていないのではないか」とショックを受けました。私は、建設業界が今後も持続的な産業として発展していくためには、ゼネコンと協力会社が大名と足軽のような上下関係ではなく、対等な仲間としてパートナーシップを構築していかなければならないと思っています。このようなパートナーシップを構築するためには、「お金」と「仕事への取り組み方」が非常に重要です。「お金」の面では、当社は、過去にコストダウンを追求するあまり協力会社に過度な価格交渉を行い、一部の協力会社と疎遠になった苦い経験があります。この経験を踏まえ、協力会社への工事発注を適切な価格で行うよう努めています。当社だけでなく、協力会社も適正な利益を得られるようにし、次の工事、その次の工事も「また一緒に仕事がしたい」と思ってもらうことが、安定的なパートナーシップの構築につながると考えます。「仕事への取り組み方」の面では、“これは下請けの仕事だ”などと上から目線にならず、協力会社の方々と現場で一緒に考えながら仕事を進める「現場密着型」であることを心掛けています。当社の安全大会にて講演いただいた元プロバレーボール選手に、“試合中に相手を攻略する糸口をつかむためにどのようなことをされていましたか” と質問を投げかけたところ、相手をよく観察し、少しの気づきでも即座に情報をチーム内で共有することが大事であるとお答えいただきました。これは当社の現場においても同じです。協力会社の方々とコミュニケーションを密に取りながら、現場での作業をよく理解し、些細なことでも情報を共有することで、不測の事態の発生にいち早く気づき迅速に対応することができると考えています。当社グループは、創業以来「堅実経営」と「誠実施工」を信条としてきました。「堅実」な経営基盤を築き上げるとともに、「誠実」に現場と向き合い、協力会社と同じ目線で同じ方向を見ることのできる「仲間」となることで、現場が一体となってより良いものをお客さまに提供できると思っています。私たちは、この経営理念をこれから先も継承しつつ、持続的な成長を目指して邁進していきます。
前中期経営計画の総括
前中期経営計画(2022~2024年度)(以下、前中計) の最終年度である2024年度は、売上高は前年度比3.5%増の2,982億円、営業利益は29%減の97億円、経常利益は40%減の89億円となりました。前中計期間中は、国内では新型コロナウイルス感染症の大流行や円安の進行、海外ではウクライナ侵攻等による世界情勢の不安定化が進み、建設業界では資機材価格が高騰するなど、厳しい事業環境に置かれました。そのようななか、公共・民間ともに建設投資は底堅く推移し、堅調な受注により売上高は目標を達成することができたものの、土木事業における特定大型工事の損益悪化や2024年7月に発生したバイオマス発電所の爆発事故による影響により、営業利益、経常利益はともに目標未達となりました。これらの結果を真摯に受け止め、新中期経営計画(2025~2027年度)(以下、新中計)では一層の収益力向上に向けて取り組む所存です。また、前中計では、総額500億円の投資計画に対して、実施率は67%に留まりました。これは比較的大きな投資規模を見込んでいた不動産投資が、市場価格の高騰などの理由から想定より進捗しなかったためです。今後もタイミングや採算性等を慎重に見定めつつ、持続的な成長に向けた投資を行っていきます。
新中期経営計画(2025~2027年度)について(飛躍の時に備え力を蓄える)
2030年のビジョンに向けて飛躍するため、新中計期間であるこれからの3年間を、体制の強化を図り力を蓄える期間として位置づけます。当社がこれからも成長軌道を描き続け、さらなる飛躍を実現するため、「持続的な成長に向けた経営基盤の強化」を新中計のメインテーマとしました(【2030年に向けたビジョン】、【中期経営計画(2025~2027年度)】)。このテーマを推し進めるには、教育・育成に注力し、優秀な人材を確保することでさらなる生産性向上を図るとともに、重大トラブル等を回避するため協力会社を含めた円滑なコミュニケーションを促進する風通しの良い職場環境を整えることが重要です。これらを踏まえ、事業戦略の基本方針として前中計に引き続き「人的資源の活用」「企業価値の向上」「事業領域の拡大」の3つに基づき、次の取り組みを実施していきます。 ① 人的資源の活用について 「企業は人なり」との言葉もあるように、事業を推進するのに欠かせないのは「人」です。 教育・育成への注力当社グループの持続的な成長をけん引していく人材を教育・育成することがこの3年間の命題であると考えます。若手・女性職員を積極的に管理職に登用し、全社を挙げてサポートすることで早期のキャリア形成を図ります。女性活躍推進については、2030年までに女性役員の比率30%以上とする政府目標も見据えながら、日建連のけんせつ小町に関する取り組み等、急ピッチで施策を展開していきます。 採用の強化と離職防止 当社における新卒3年以内の離職率は13.5%にのぼり、技術職を中心に人員が逼迫していることから、人材の確保と離職防止は喫緊の課題だと捉えています。CMによる効果もあり新卒採用は一定数を確保できていますが、競合他社も採用に力を入れており、気を抜くことはできません。文系学科出身者を技術職として採用する新たな試みを行うなど、新卒採用や中途採用を強化し、引き続き多様な人材の確保に努めます。また、離職防止施策としては、ジョブローテーション制度やタレントマネジメントシステムの導入等を通じて適性やスキル、希望する働き方を見える化します。それらを踏まえた個々のキャリアプランを提案し計画的に人事配置を行うことで、ミスマッチの低減を図っていきます。 エンゲージメント向上施策の推進 職員に向けて定期的なエンゲージメント調査を実施し、社員エンゲージメントの向上に資する処遇改善や職場環境改善につながる課題を抽出します。それらの改善策を検討したうえで給与制度や教育・育成制度の改定を行い、魅力ある職場を創出します。 ② 企業価値の向上について 品質・安全を担保しながら手戻りの無い施工を行い、高品質な成果物を納めたうえで、さらなる企業価値の向上に向けた収益力・技術力の向上、ESG/SDGs への取り組みを進めていく必要があります。近年、案件の大型化にともない増加しつつあるトラブルによる損失を抑制していくためには、現場の職員がコア業務に注力し、現場に対する感性を磨いていくことが不可欠です。現場の職員をノンコア業務から解放し、コア業務に注力できる環境を整えるべく、前中計期間に下地を整えてきたDX推進等による業務効率化やBPO活用に引き続き注力していきます。 収益力・技術力の向上 収益力・技術力を高めていくために、工事生産性の向上に資する省人化・遠隔化技術の開発の他、事業ポートフォリオ分析のもと、優位性の高い分野を意識した選別受注および技術開発を進めるとともに、応札部門における人員拡充や必要な知識教育に注力するなど体制強化を図っていきます。 ESG/SDGs・サステナビリティ課題への取り組み強化 昨年度の原価付替えに関する不祥事により、投資家の皆さまをはじめ、関係者の皆さまに多大なるご迷惑とご心配をおかけしました。これを受けて、管理体制の見直し・強化を行いコンプライアンスの徹底を図ることで、失った信頼を取り戻すべく、当社グループのマテリアリティ(重要課題)について「コーポレート・ガバナンスの強化」を追加する等の更新を行いました(【ESG/SDGsに関わるマテリアリティ(重要課題)】)。ガバナンスの強化に注力するとともに、ESG/SDGsに関わる他の課題解決に向けた取り組みを新中計と一体的に推進することで、長期的な視点でサステナビリティ課題への対応を進めていきます。特に、「環境に配慮した事業の推進」については、脱炭素化の推進や、建築物の省エネルギー設計、再生可能エネルギー事業の推進等に注力します。今後は、IR・SR 面談で頂戴した投資家の皆さまからのご意見も踏まえながら、サステナビリティ課題へ対応し、外部への情報開示を拡充するとともに、CDPなどのESG評価機関のスコア取得も進める所存です。 ③ 事業領域の拡大について 当社グループは、主たる事業である建設(土木・建築)事業の拡大に加え、景気変動によって建設事業に不況の波が押し寄せた際に、会社を下支えすることのできる第3の柱として、不動産事業や新規事業を成長させたいと考えています。 バイオマス発電事業の継続 新規事業のうち、前述の爆発事故が発生したバイオマス発電所は、残念ながら現在運転を停止しています。社内で事業を継続すべきか慎重に議論しましたが、脱炭素社会の実現に貢献したいとの思いから、収益性も考慮のうえ、継続することを決めました。早期の全面再稼働を目指して、改修工事を進めています。 ウォーターPPPへの取り組み 当社は他社に先駆けて2023年からウォーターPPP案件受託に向けた取り組みを進めており、千葉県柏市と福島県いわき市において下水道管路包括管理業務を受託しています。近年のインフラ老朽化や自治体職員の不足等によって、今後は下水道事業を含む公共施設等における民間への管理委託事業の重要性がさらに高まると考えています。この先行優位性を活かし、ウォーターPPPを中心とした、官民連携事業を強化・拡大していきます(【事業紹介 投資開発事業等】)。 海外事業の推進 海外事業についても強化を図ります。2025年4月より、西日本支社に新たに国際支店を設置しました。近年の台湾・シンガポールにおいては、地下鉄の開発が急速に進んでおり、当社の得意とするシールド工事の大型案件が複数出件されています。国際支店を新設し、支援部署が充実したことで、これまで以上に機動的に海外事業を推進していきます(【事業紹介 海外事業】)。
「人を大切にする会社」
当社は「人」を象徴したロゴマークを採用しており、「2030年に向けたビジョン」でも「人を活かし、人を大切にする」ことを標榜しています。この「人」とは、当社職員にとどまらず、株主の皆さまやお客さま、協力会社、地域住民の方などすべてのステークホルダーが対象であると考えています(【ロゴマークの由来】)。ある時、協力会社の方から、こんなことを言われたことがありました。「ゼネコンにはそれぞれの社風があるが、奥村組からは、『人を大切にする会社』という社風がひしひしと感じられる」。これは冒頭に述べました“当社職員が現場に密着し、協力会社の方々と真摯に向き合いながら仕事をしてきたこと”による結果だと思います。お客さまに対して誠実に対応することはもちろんですが、協力会社からも「奥村組とまた仕事がしたい」と思ってもらえるよう精進します。また、株主の皆さまに対しては、前中計に引き続き、連結配当性向70%以上とした株主還元方針に基づき、安定的な配当を通じてご期待に応えていきます(【中期経営計画(2025~2027年度)(資本政策)】)。当社職員に向けては、「社員が誇れる企業」であるために、キャリア形成だけでなく健康づくりも積極的に支援することで、職員一人一人が生き生きと活躍できる職場環境を実現する健康経営を推進します。(【健康経営】、【両立支援】)
最後に

今年4月、新たに134名の職員が入社しました。当社を選んでくれた新入社員たちが、「奥村組に入社して良かった」と思い、彼らもまた、「人を大切にする会社」の一員として、当社の社章を胸を張って身に着けられるよう、そして、彼らを含めた全職員が同じ方向を向き、「2030年に向けたビジョン」を実現できるよう、力強く歩みを進めていきます。皆さまにおかれましては、今後とも変わらぬご支援を賜りますよう心よりお願い申し上げます。
- 社長方針
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経営理念のもと、社会の持続的な発展に貢献するために、社会のニーズの変化を見据えた事業・サービスを展開するとともに、ESG/SDGs に関わる取り組みを一体的に推進し、確かな技術と誠実な事業運営により社会の信頼に応え、成長し続ける企業グループを目指し、次の活動を推進する。
- 1. コンプライアンスの面では、法令順守の徹底はもとより、企業行動規範のもと、企業倫理に則った公正かつ誠実な事業活動を推進する。
- 2. 安全衛生面では、進捗第一になりかねない施工を排し、「真の安全第一」を追求し、労働災害の撲滅を図るとともに、快適な職場環境を形成する。
- 3. 品質面では、「顧客満足」「社会的信頼」の向上を目指して品質管理を徹底するとともに、顧客のニーズに即した製品、技術、サービスを提供する。
- 4. 環境面では、「人と地球に優しい環境の創造と保全」を目指し、環境汚染の予防、環境負荷の低減および環境の保全に取り組む。
- 5. 労働環境面では、ウェルビーイングの実現を目指し、働き方改革の推進および心身の健康の保持増進を図る。
- 6. 統合マネジメントシステムの適確な運用ならびに継続的な改善により、事業活動にともなうリスクを管理し、機会につなげていくとともに、業務を効果的・効率的に遂行する。
全役職員は、この方針に基づき、自らの果たすべき職務あるいは責任に即した目標を設定し、主体性をもって達成に向けて取り組む。
2025年6月社長 奥村 太加典