奥村 先生が警鐘を鳴らされている「長周期振動」による被害、また東南海地震との関係などについてお話をお聞かせください。 入倉 阪神・淡路大震災の時、周期がだいたい1秒の地震動が、構造物に影響を及ぼしやすい、すなわち破壊力があることが分かりました。つまり周期が1秒前後の揺れ(短周期振動)の被害から免れる建物をつくる必要があるということで、そのような考え方がその後の耐震設計の主な目的となってしまったようにも感じます。 しかし、東南海地震のような巨大地震では、周期数秒以上の長周期振動が発生しやすいのです。歴史的に見て、長周期振動で被害を受けた構造物に目立ったものはなかったのですが、現在は長周期振動によって大きな被害が出る可能性のある構造物が増えています。それが超高層建物であり、石油タンク、そして免震建物もそれに該当することになります。 奥村 石油タンクの被害は、十勝沖地震で発生したいわゆる「スロッシング現象※」によるものですね。
入倉 はい。2003年の十勝沖地震時に、震源から 200km以上離れている苫小牧にある某石油会社のタンク内で「スロッシング現象」が発生し、タンクを損傷させ、大火災などを引き起こしました。発生が予期されている南海地震や東南海地震は十勝沖よりも震源域が広いので、国内各地で甚大な被害が発生する可能性があり、危惧しております。 |
奥村 その要因がやはり長周期の揺れということですか。 入倉 そのとおりです。ただ興味深いのは小さいタンクは被害を受けていないことです。比較的大きい特定サイズのタンクだけに被害が出ている。苫小牧で被害を受けたタンクのスロッシングの周期が7秒ぐらい。その周辺で取れた波動の記録とも一致しています。小さなタンクは固有周期が短かったため7秒の震動では大丈夫だったと考えられます。 奥村 揺れをしなやかに吸収する超高層建物には「地震が来ても大丈夫」という概念がありますが、「長周期振動に対しては非常に危ない」ということですね。建築に携わる私どもにとっては非常に気になる点ですが。 入倉 長周期振動に対しては安全といえません。超高層建物はしなやかでゆっくりした動きをするため、短周期振動には共鳴しませんが、超高層建物が持つ固有周期と同じ周期の地震動が来たら危ないです。その地震動が長周期振動なのです。 免震建物の優れた性能が注目されつつあるようですが、私は「制振」の技術も発達してほしいのです。長周期の波にはダンパーなどによる減衰が効果的です。しかし、理想的な制振というのもなかなか難しい研究課題であり、土木学会、建築学会などと合同で検討中です。 奥村 「超高層は大丈夫ですよね」という質問に対し、「長周期の揺れへの対応については不十分な面もあります」とお答えしても、一般的に「超高層は大丈夫」という認識を持っておられる方が多いようです。 入倉 阪神・淡路大震災のような地震動に対して超高層は安全です。揺れの周期でいうとたかだか1、2秒ですね。超高層建物の固有周期は5秒前後で、周期が異なりますからそれほど揺れないわけです。 私は「それでいい(超高層は安全)と思っている風潮」に問題があると思います。 |
|
奥村 社会全体に危険要因がたくさんあるわけですが、そういった中で私ども建設会社の役割についてお考えを聞かせてください。 |
奥村 建設に携わる企業としまして、さらに技術に磨きをかけ、地震から社会を守るという気持ちで、広く社会に貢献しなければという気持ちが強くなりました。
免震技術に関して、当社は1985年に日本初の免震ビルを実用化したという誇りがあるわけですが、いつまでもそれだけではいけないということもよく分かりました。 入倉 その姿勢が大切です。1994年にアメリカでノースリッジ地震が起こり、道路の高架橋が倒れました。その時に日本から土木の先生が現地に赴き「日本ではこんなことは起きません」と言ったのですが、1995年の阪神・淡路大震災で、高速道路や鉄道などの構造物がいとも簡単に倒壊しましたね。やはり何事も謙虚に学ぶ必要があると思います。 奥村 本日は貴重なお話をたくさん聞かせていただき、本当にありがとうございました。今後ともご指導のほどよろしくお願いいたします。 |
|
copyright(c)OKUMURAGUMI 2004 all rights reserved.
|