株式会社奥村組は、既設の鉄筋コンクリート柱(以下RC柱)の耐震補強において、高強度鉄筋と吹付けモルタルを使用することで補強部材を薄くした曲げ補強工法を開発(特許出願済)し、この度、公益財団法人鉄道総合技術研究所の技術指導のもと、実橋脚の縮小試験体を使用した正負交番載荷試験によりその性能を確認しました。
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ここでいう「曲げ補強」とは、既設構造物のせん断耐力のみならず曲げ耐力の向上を図る技術を指します。 |
【背景】
阪神・淡路大震災の発生以降、鉄筋コンクリート構造物の耐震化が注目されるようになり、膨大な数の既設構造物に対し耐震補強が進められています。
鉄道橋や道路橋をはじめとした既設RC柱の耐震補強においては、曲げ補強が必要な場合があり、一般的には、柱周りに新たな鉄筋コンクリートを増し打ちする「RC巻立工法」や補強用の鋼板を巻き立てる「鋼板巻立工法」が多く用いられています。しかし、RC巻立工法は、補強部材が厚くなるため、河積阻害率※2や建築限界の制約を受ける箇所では適用できない場合があり、一方の鋼板巻立工法は、薄層での補強が可能ですが、補強材料が高価で、施工時に揚重設備を要することから、コストの増加や施工性の低下が問題となっています。このことから、補強部材が薄層で経済性・施工性に優れた曲げ補強工法が求められています。
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河積阻害率とは橋脚の総幅が川幅に対して占める割合のことであり、次式で定義される。また、河川管理施設等構造令により、その基準が定められている。
河積阻害率=(河川内の橋脚幅×基数)÷河川幅 |
【概 要・特 長】
今回開発した補強工法は、既設RC柱のせん断補強用として開発し、3,000本以上への施工実績をもつ当社保有の技術の「スパイラル筋巻立工法」をベースとし、これに曲げ補強用の軸方向鉄筋を付加し、吹付けモルタルで仕上げたもので、以下の特長を持っています(図1〜2、写真1〜2)。
@高強度鉄筋の使用による鉄筋数量の低減および小径化 |
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軸方向鉄筋に高強度鉄筋(降伏強度1,275N/mm2)を使用しており、普通鉄筋の場合に比べ、鉄筋数量の低減、鉄筋径の小径化およびそれにともなう補強部材の薄層化が可能となります。 |
A鉄筋先端の突起化による基礎部への定着長の低減 |
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軸方向鉄筋は、RC柱と構造的に一体化させるため、基礎部に定着させる必要があります。この定着部の鉄筋の先端を突起状に加工し、定着力の向上およびそれにともなう定着長の低減を図ることで、定着部削孔時の鉄筋損傷リスクなど基礎部への影響を最低限に抑えることができます。 |
Bせん断補強鉄筋の事前加工および機械式継手の使用による施工性の向上 |
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せん断補強鉄筋は、事前に工場で加工し、現地でスパイラル状に組み立てます。また、鉄筋同士の接合には機械式継手を使用することで簡素に組み立てることができます。 |
本工法を使用することで、RC巻立工法に比べて補強厚さを1/3程度に低減できるほか、型枠を設置する必要がないため、作業の効率化が図れます。また、鋼板巻立工法と比べて、コストを30%程度低減できるほか、揚重機械を必要とせず、人力での運搬・組み立てが可能なため、狭隘箇所への適用が可能となります。
【性能試験による確認】
耐震性能確認として、実大の壁式橋脚の1/4縮小モデル(幅1,500mm×厚さ500mm×高さ2,000mm)を使用した正負交番載荷試験(写真3)を実施しました。試験の結果、本工法により補強された試験体の性能は、現行の設計手法で算出される曲げ耐力および変形性能に対して高い整合性を示し、現行の設計手法を適用できることを確認できました。
今後は本工法を、鉄道橋や道路橋をはじめとした曲げ補強が必要なRC柱に対して、薄層で施工性の良い耐震補強技術として積極的に提案していきます。
以 上
【お問い合わせ先】
株式会社奥村組
東日本支社 リニューアル技術部技術課
山口
Tel. 03-5427-8038 |
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図1 曲げ補強工法の概要 |
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図2 曲げ補強工法の概要(断面図) |
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写真1 補強部の配筋状況 |
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写真2 吹付けモルタル施工状況 |
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写真3 交番載荷試験状況 |
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