株式会社奥村組は、地下水汚染の範囲や濃度を高精度に予測する「地下水汚染予測シミュレーションシステム」を開発し、このたび岩手県発注の山田地区災害廃棄物破砕・選別等業務において実証試験を行い、性能を確認しました。
【背景】
地下水汚染の原因のひとつに、工場や事業場から流出した有害物質の地下浸透が挙げられており、土壌・地下水の調査で汚染が確認された場合は拡散防止のための対策が必要になります。特に、地下水汚染が広範囲に及ぶ場合は、より合理的な対策を検討するために、地下浸透した有害物質がどのように移流・拡散するかを数値解析によりシミュレーションする手法が有効になります。しかしながら、@解析に必要な地盤透水係数について、既存の原位置透水試験では地下水位より上方の不飽和地盤の評価が難しいため、これを飽和地盤と仮定して取り扱うなど、地盤モデルの再現性が乏しい、A広範囲モデルの代表的な解析手法であるオイラリアン・ラグラジアン法(以下、EL法)では、数値分散※1によって汚染濃度の拡散を過大評価しやすいといった問題があり、必ずしも対策の合理化に繋がるとは限りませんでした。
【本システムの概要】
本システムでは、@およびAの問題を解決するために、@)不飽和地盤における透水係数の測定技術を開発し、A)EL法に改良を加えて解析精度の向上を図りました。
@)不飽和透水係数の原位置測定技術の開発
本技術は、地表面から地盤に加圧注水しながら、深さ方向に設けた測点における含水率の経時変化を測定することにより、不飽和透水係数を推定するものです。試験装置は30p四方の密閉蓋、注水圧力の調整バルブ、送水ポンプ、給水タンク、小型圧力計、土壌水分計等で構成されています(図1、写真1)。
不飽和地盤における原位置透水試験としては、地盤に定圧注水を行い、浸透流量と地盤の含水率を測定する手法が一般的ですが、よく締まった土などの透水性が低い地盤では、一般的な注水圧では膨大な時間を要し、一方で相応の注水圧を確保するには水頭差を設けるための大掛かりな試験装置が必要となるため、実効性のある試験が困難でした。本技術では、対象地盤の透水性に応じて、段階的に注水圧を変更できる加圧方式を採用しており、試験装置もコンパクトなサイズとなっているため、現地で不飽和透水係数を短時間で測定できます。
A)改良EL法による解析精度の向上
EL法の課題となっている数値分散の抑制方法として、FEM(有限要素法)における要素の細分化がありますが、計算量が膨大となるため実用的な方法とは言えません。本技術では、数値分散のもう一つの要因であるタイムステップ※2に着目し、これを要素ごとに数値分散が生じにくい間隔に自動設定することで、解析精度の向上を図りました。
【実証試験】
災害廃棄物処理業務において、本システムにより不飽和地盤の透水係数を測定し、地下水汚染の拡散状況をシミュレーション(解析モデルサイズ:幅500m×長さ400m×深さ20m、平均日降雨量および潮位変動も考慮)した結果は、現地における土壌分析および地下水水質調査結果と良好に対応しており、地下水汚染の拡散状況を高精度で予測できることを確認しました(図2、図3)。
【今後の展望】
本システムは、地下水汚染の拡散防止対策を実施するうえで、工期短縮やコスト低減に繋がる合理的な対策の選定に有効なツールであり、当社が保有する「オゾンマイクロバブルを用いた有害物質を含む地下水の高効率浄化技術」や「微生物を用いた油分含有土壌の浄化技術」と合わせて、積極的に提案していく所存です。
※1 数値分散:タイムステップごとに物質濃度を節点に再配分するために生じる数値解析上の誤差で、メッシュサイズより小さい(短い)物質移動を解析した場合に生じる。
※2 タイムステップ:数値計算を実行するうえでの計算時間の間隔。
以 上
【お問い合わせ先】
株式会社奥村組
西日本支社 土木技術部 技術3課
森田
Tel.06-6625-3980 |
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