注1)
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バイオレメディエーション(生物による環境修復技術;Bioremediation)
微生物、植物、動物などの生物が持っている化学物質の分解能力や蓄積能力などを利用して、有機塩素化合物や重金属などの有害物質で汚染された土壌や水環境を修復する技術。微生物を活用したバイオレメディエーションは、微生物の活用の仕方によってバイオスティミュレーションとバイオオーグメンテーションの2つに分類される。
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注2) |
微生物によるバイオレメディエーション利用指針
バイオレメディエーションの中でも特に、バイオオーグメンテーションを実施する際の安全性の確保に万全を期すための指針。生態系への影響及び人への健康影響に配慮した適正な安全性評価手法及び管理手法のための基本的要件の考え方を示し、バイオレメディエーション事業の一層の健全な発展及びバイオレメディエーションの利用の拡大を通じた環境保全に資することを目的とする。
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注3) |
今中忠行(立命館大学生命科学部生物工学科教授、京都大学名誉教授)
95℃以上の高熱環境で生息する超好熱菌の発見や、第46次南極地域観測隊員として南極に生息する微生物を探索する等、微生物学の分野で精力的に活動をすると共に、これら極限環境微生物学を専門とした幅広い研究活動を続けている。また、南極往来時の観測船「しらせ」船内では、「しらせ大学」「南極大学」の学長を務め、2005年からは日本学術会議環境学委員会の副委員長も務めている。
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注4) |
アルカン系石油類による汚染土壌の浄化工法の比較
バイオレメディエーション工法は加熱工法や場外搬出より安価で環境に優しい浄化工法である。
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表―1 油汚染土壌浄化各工法の特徴比較 |
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注5) |
バイオスティミュレーション(微生物活性化法;biostimulation)
汚染サイトに生息している微生物を活性化させる方法。窒素やリン等を添加し、浄化を行う。
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注6) |
バイオオーグメンテーション(微生物添加法;bioaugmentation)
汚染サイトに効率的な分解菌自体を注入する方法。汚染現場にもともと存在する微生物を外部で培養し後に添加する方法、汚染現場以外から単離された分解微生物を導入する方法、さらに汚染物質を効率よく分解するように遺伝子を組換えた微生物を加え浄化を行う方法などがある。
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注7) |
選抜した3種類の菌株の特徴
@Novosphingobium sp. No.2株 (ノボスフィンゴビウム属細菌)
Novosphingobium 属の細菌は、好気性のグラム陰性*1の桿菌*2であり、様々な環境から分離されていることから、地球上に広範囲に生息する微生物であると考えられている。No.2株自身は、グルコース*3やピルビン酸*4等の代表的な糖、有機酸を資化できるほか、C18、C19 あるいはC27 以上の長鎖アルカン*5を分解・資化することができる。
APseudomonas sp. No.5株 (シュードモナス属細菌)
Pseudomonas属の細菌は、通性好気性、グラム陰性の桿菌であり、種類が多く、幅広い特徴を持ち、様々な環境から分離されていることから、地球上に広範囲に生息する微生物であると考えられている。No.5株自身は、グルコースやピルビン酸等の代表的な糖、有機酸を資化できるほか、C19 以上の長鎖アルカンを分解・資化することができる。
BRhodococcus sp. No.10株 (ロドコッカス属細菌)
Rhodococcus属の細菌は、通性好気性、グラム陽性の球菌または桿菌であり、様々な環境から分離されていることから、地球上に広範囲に生息する微生物であると考えられている。No.10株自身は、グルコースやピルビン酸等の代表的な糖、有機酸を資化できるほか、C10 以上の長鎖アルカンを非常によく分解・資化することができる。 |
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写真―1 使用する単離菌 |
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*1 |
グラム染色(陽性、陰性)
細菌を選択的に染めだす染色法。その染色性は細菌の重要な分類学的特徴の1つである。赤色に染まる菌をグラム陰性菌、紫色に染まる菌をグラム陽性菌と呼ぶ。染色機構は未解明の部分が多いが、細胞壁の構造の相違によると考えられている。 |
*2 |
桿菌
細菌を形状で分類した際に、円筒状(桿状)の細長い形をしたものをいう。対して、丸い形をしたものを球菌という。
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*3 |
グルコース
ブドウ糖のこと。甘い果実、その他の植物組織に多量に存在するなど天然に最も広く分布している単糖。
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*4 |
ピルビン酸
有機酸の一種。生体内でグルコースが分解される経路の重要な中間体。
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*5 |
アルカン
脂肪族飽和炭化水素のこと。Cxと記述することが多く、この場合炭素原子がx個連なった脂肪族飽和炭化水素を指す。石油の主な成分のひとつ。 |
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注8) |
文献調査による安全性の確認
3菌株の近縁種は、いずれも安全性に問題の無いバイオセーフティレベル1*6に分類される。
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*6 |
バイオセーフティレベル(BSL)
病原性微生物等をヒトへの病原性の観点から分類した基準。バイオセーフティレベル1〜4までの分類があり、レベル1は「ヒト又は動物に重要な疾患を起こす可能性のないもの。」と分類され、病原性のない一般的な微生物がこれに当てはまる。レベル2以上は病原性を有するとされる。
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注9) |
動物実験による安全性の確認
・動物への投与試験
供試哺乳動物に選抜した3菌株の等量混合物を投与し、体重変化等の観察及び解剖を行った。
・魚類を用いた水中暴露試験
供試魚の入った水槽に、3菌株の等量混合物を添加し、供試魚の状態に変化があるかどうかを数週間観察した。
・試験結果
供試哺乳動物、供試魚ともに、3菌株の等量混合物投与による影響は観察されず、3菌の動物に対する病原性、毒性等は認められなかった。
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注10) |
他の微生物への影響
砂質系、粘土質系の2種類の油汚染土壌で、3菌株の等量混合物投与・添加による他の微生物群への影響を評価した。3菌株の投与前後の土壌中微生物の遺伝子解析の結果、病原菌に相当する有害微生物の増加は認められなかった。
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注11) |
選抜した単離菌の挙動把握
選抜した3菌株はいずれも単離された菌であり、それぞれの菌を検出する方法を確立しているため、挙動を容易に把握できる。
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注12) |
試験用に採取した実際の油汚染土壌(軽質油を主体とし、油分濃度は0.45〜0.49%)を用いて油分分解実験では、選抜した3菌株を混合投入したバイオオーグメンテーションの方が、栄養塩のみを添加したバイオスティミュレーションより28日経過時点の油分残存率が、30%程度低くなっている。 |
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図−1 実油汚染土壌における油分分解結果 |
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注13) |
ランドファーミング工法は以下の施工順序で実施する。
@.油含有土壌を掘削し、地上に盛土(高さ1〜1.5m程度)する。
A.所定量の3菌株、栄養塩を散布する。
B.定期的に重機で土壌を攪拌して、土壌中を好気的条件に保ち、微生物の活性を促し、油分の分解を図る。 |
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図―2 ランドファーミング工法 |
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注14) |
注入工法は以下の施工順序で実施する。
@.垂直又は水平ボーリングを用いて、複数の注入孔を設けた注入井戸を設置する。
A.注入機等を用いて、注入井戸より、所定量の3菌株、栄養塩を注入する
B.注入された3菌株、栄養塩が対象土壌中に浸透することにより、広範囲に渡る油分分解を行う。
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図−3 注入工法 |
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