株式会社奥村組と奥村機械製作株式会社は、軟弱粘性土層から巨石混じりの礫層まで、シールド掘進地盤の変化に応じて、カッターヘッドを最適な形態に即時変更できる「スライドカッター工法」を共同開発し、滋賀県内のシールド工事に現在適用しています。
今回開発した「スライドカッター工法」は、粘性土層・砂礫層・玉石層など路線中で地質が大きく変化する地盤の掘進や長距離掘進を対象にした泥土圧シールド工法です。本工法に用いるスライドカッターシールド機はカッタースポークの構造が、固定構造のカッタースポーク(固定スポーク)と掘進方向に前後にスライド可能なカッタースポーク(スライドスポーク)の二重構造になっており、土質及び施工距離に応じて最適なカッターヘッドを選定して掘削を行います。
従来、玉石混じり砂礫層と粘性土層などが繰り返し出現する地盤を1台のシールド機で施工する場合、いずれかの土質を対象にしたシールド機を選定せざるを得ないため、玉石によるビットの損耗、粘性土によるスリットの閉塞やローラービットが引き起こす粘性土での掘進速度の低下など土質変化に伴う様々なトラブルや、最悪の場合は掘進不能の事態に至る場面も生じていました。このようなトラブルを防ぐため、中間立坑を設けてビット交換を行う方法やシールド機の切羽部分を地盤改良して機内からビット交換する方法が採られてきました。スライドカッターシールド工法はこのような作業を必要とせず、問題を解決できる施工法です。
例えば、発進当初は玉石混じり砂礫層で途中から粘性土層が出現する地盤では、固定スポークに玉石破砕用のローラービットを取付け、スライドスポークには粘性土掘削用ビットを取付けます。最初の砂礫層ではスライドスポークはチャンバー内に後退させ、固定スポークを前面に出して玉石をローラービットで破砕しながら掘進します。そして、粘性土が出現した時点でスライドスポークを固定スポークより前方にスライドさせ、この粘性土掘削用ビットで粘性土層の掘進を行います。
このように土質毎にカッターヘッドを対応させることでシールド掘進を効率的に行うことができ、繰り返し出現する地層にも対応が可能です。
また、地盤がほぼ均一な土砂地山の長距離シールド工事では両方のカッタースポークに土砂用ビットを取付けてカッター寿命の延命を図ります。
さらに、カッタービット交換を機械的に行うことが困難であった小口径シールド(シールド機外径φ2,000mmクラス)についても、路線中で地盤物性が大きく変化する場合や、施工延長3,000m〜5,000mの超長距離での施工を可能とします。
スライドカッター工法を適用した場合、掘進距離L=3,000m〜5000mで、途中、中間立坑1〜3箇所を設けてビット交換を実施する場合と比較すると、全体工費を約5%〜10%低減することができると試算しています。
「スライドカッター工法」の特長は以下のとおりです。
@ 地盤の変化に対して短時間で、最適なカッタースポークに変更することができ掘進作業の効率化が図れます。
A ビット交換に伴う地盤改良や立坑築造が不要となり、大幅な工期短縮とコストダウンが可能です。
B ビット交換のための切羽作業が不要になるので安全性が向上します。
C 対象地盤および施工距離に適合した合理的なシールド機の設計ができます。
「スライドカッター工法」の適用範囲は以下のとおりです。
●:適用土質 …… 軟弱粘性土層から巨石混じり礫層まで
●:シールド外径 …… シールド外径φ2,130mm〜φ6,250mmまで
奥村組は今後、土質変化の激しい地盤や超長距離シールド工事を対象に「スライドカッター工法」の積極的な利用を図り、さらなる施工性および経済性の向上に取り組んでいきます。
以 上
【お問い合わせ先】
株式会社奥村組 技術本部土木部
畑山 Tel .03-5427-8578
奥村機械製作株式会社 営業部
村永 Tel .06-6477-8540 |

図−1 地盤変化対応型シールド機

図−2 長距離対応型シールド機

図−3 地盤変化対応型シールド機の適用例
※玉石混じり砂礫層では、土砂用ビットを取付けたスライドスポークを後退した状態で、固定スポークに取付けられたローラービットで玉石を破砕しながら掘進する。途中の粘性土地盤になると、スライドスポークを固定スポークより前進させ、土砂用ビットで掘進する。

図−4 長距離対応型シールド機のスライドスポーク作動状況
※固定スポークのビットが摩耗すると、スライドスポークを前方にスライドさせることにより、カッター寿命の延命を図って、長距離掘進に対応する。
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