株式会社奥村組は、山岳トンネルの低振動・低騒音掘削用として開発した小型軽量スロット削孔機(以下「スロットスター」:商品名)を、水力発電所のリニューアル工事に適用し、稼働中の発電機に影響を及ぼすことなく、低振動下で発電機基礎コンクリートの解体撤去工事を進めています。施工場所は、昭和初期に建設された中国電力株式会社の打梨発電所(広島県山県郡戸河内町)です。
今回の工事は、老朽化した水車・発電機を新規の水車・発電機に取り替える工事で、周囲の基礎コンクリートを解体撤去し、新しい水車・発電機にあわせて基礎工事を行うものです。発電機は3機あり、うち1機は既に新しく取り替えられており、これを稼働しながら老朽化した2機の取り替えを行います。
稼動中の発電機に振動や粉じんによる影響を与えないよう、コンクリートを解体撤去することが要求されました。そこで今回、スロットスターとワイヤソーを併用することで、振動および粉じんを防止しながら基礎コンクリートをブロック状に切断して解体、搬出する工法を採用しました。
スロットスターは、奥村組が古河機械金属株式会社(社長:吉野哲夫)と共同開発した、岩盤やコンクリートに溝を掘るための小型・軽量で高効率の2連式のスロット削孔機です。
本機は、市街地に近接した山岳トンネルにおいて振動・騒音の影響を周辺に及ぼすことなく掘削する工法として多くの実績を有するSD工法(商品名)に使用する目的で開発したドリルです。小型軽量であるため、トンネル工事で通常用いるドリルジャンボや油圧ショベルにも容易に搭載することができます。
このため、小断面トンネルや比較的小規模な岩盤掘削工事に対してもSD工法が採用される機会が増えましたが、今回、本機をコンクリート構造物のリニューアル工事に、初めて適用しました。
施工手順は以下の通りです。
@ 撤去する基礎コンクリートに対して鉛直下向きに、スロットスターで深さ1.5〜1.8mの連続溝を作成し、ブロック状に切断。
A ブロックの底面をワイヤソーで切断。
B 分割したブロックを発電所の天井クレーンで搬出。
以上の方法によって、稼働中の発電機に振動、粉じんの影響を及ぼすことなくコンクリートの解体撤去が可能となり、現在、順調に工事を進めており、工期も従来に比べ短縮できる見込みです。
今後同工法を、重要コンクリート構造物の解体撤去工事や岩盤立坑掘削工事等に、積極的に適用していく予定です。
[お問い合わせ先]
〒545-8555大阪市阿倍野区松崎町2-2-2
(株)奥村組本社土木部 萩森健治
TEL06-6625-3763 FAX06-6627-2340 |
【補足説明】スロットスターについて
スロットスターは、従来の4連式スロット削孔機(SDV型機)をベースに開発した2連式のドリルで、重量はSDV型機の約1/2と軽量であるため、トンネル工事で通常用いるドリルジャンボや油圧ショベルにも容易に搭載することができます。このため、小断面トンネルや小規模なSD工事にも手軽に採用することが可能です。さらに専用のベースマシンが不要であるため機械経費を節減できます。
SD工法は、SD機を用いてトンネル外周や掘削面に適宜自由面を設けることにより、山岳トンネルにおいて振動・騒音の影響を周辺に及ぼすことなく掘削する工法ですが、スロットスターはさらに
・トンネル交差部
・既設トンネルや導坑の拡幅
等の地山の緩みが問題となりやすい工事で、地山を極力緩めずに掘削することもねらいとしています。
SD工法の施工実績は本四連絡道路舞子トンネルをはじめ、20数件となっています。
スロットスターの特長は以下のとおりです。
@ 小型・軽量の2連式ドリルであり、通常用いるドリルジャンボはもちろん、小断面用のレール台車や、油圧ショベル等にも容易に搭載可能。
A 機械経費を節減できる分のコストダウンが見込める。
B 短期間の小規模なSD工事、大型重機の使用が困難な小断面トンネル、立坑工事、ダムの穴あけ工事など、狭い空間での工事にも適用できる。
C 削孔性能および装置の耐久性については、従来のSDV型機で実証されている。
スロットスターは、旧建設省中部地方建設局発注の平成10年度150号新日本坂トンネル西工区工事において、坑口付近の機械掘削及び低振動発破区間で初めて採用されました。
また、愛知県下の水路トンネル(掘削断面積:約7m2)や岡山県下の放水路(掘削断面積:約12m2)トンネルにも採用されました。
以 上

写真−1 スロット削孔中の状況(2号機水車発電機)
写真−2 ブロック状に切断された基礎コンクリートの搬出 |